いささか旧聞に属するが、大切なことなので取り上げる。
天皇・皇后両陛下は5月21・22両日、
栃木・群馬両県をお訪ねになった。
マスコミはこれを「私的ご旅行」と報じていた。
しかし、皇后陛下はご持病の頚椎症性神経根症による、
左の肩から腕にかけての激しいお痛みを押しての、お出まし。
単なるプライベートな物見遊山とは、とても考えられない。
明確な目的意識、強い使命感によるご旅行と考えるべきだ。
主な目的地は、鉱害で自然が痛ましく荒廃した歴史を持つ、
「足尾銅山」ゆかりの地(栃木県日光市)。
被害の爪痕が今も残る山々をご覧になり、
緑化に取り組む現地のボランティア・グループの代表者から、
ご説明をお聞きになった。
足尾の緑化について、陛下は「様子を1度、見てみたい」と
おっしゃっていたという。
我々にとって、ややもすれば大昔の出来事のようにも感じられる、
明治時代の「人と自然に巨大な被害を及ぼした公害事件」に、
かくも強くみ心を寄せておられたのだ。
そうであるなら、今、目の前にあり、被害の深刻さは更に上回る、
福島第1原発の事故による被害について、
陛下がいかばかり深くみ心を悩ましておられるか、
どんなに鈍感な者でもたやすく想像出来るだろう。
ならば、陛下が同県佐野市の郷土博物館で、足尾鉱毒事件の際、
田中正造が明治天皇に渡そうとした直訴状を、
親しくご覧になったことの意味も、慎重に拝察する必要がある。
陛下がご説明を受けられた田中正造の日記の一節には、
次のようにあったという。
「真の文明ハ山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、
人を殺さざるべし」ー